『パイプのけむり』【鶏のハーブフリット】
子どもの頃、明治生まれの先生にピアノを習っていた。
レッスンは小さなぶどう棚のある庭に面した、一続きの部屋で、グランドピアノが2台。隣の部屋には本棚とソファがあって、子どもたちが順番を待っている。
先生はわたしたちのために『子どものとも』と『かがくのとも』を購読していて、それが年に1回、早い者勝ちでもらえたりするのだが(その結果、『はるにれ』の初版本にお気に入りシールを貼っちゃったりするのだが・・・笑)、他にも、ご自分のための本があって、それも自由に読ませてくださった。
『パブロ・カザルス』とか、『ジョン・ケージ』とか、音楽書のほかにも、『吾妻鏡』だったり笑、歴史の本もあった気がする。
その中でとりわけ大好きだったのが、團伊玖磨さんの『パイプのけむり』。
もちろん有名な音楽家なのだけれど、当時の私には、「面白いおじさんが世界中旅している」という意味では、『どくとるマンボウ』も『ドリトル先生』もあまり変わりがなかった気がする(「兼高かをる世界の旅」も大好きだったので、面白いおばさんでも良かったのかもしれないが・・・)。
ただなかでも、『パイプのけむり』は、『どくとる』や『ドリトル』みたいな隠された暗さのようなものがあまり無く、しかも「美味しいもの」がたくさん出てくるので、「練習してないのにレッスンに来た」罪悪感や緊張感を忘れさせてくれたものだった笑。
・・・そんな『パイプのけむり』がテーマ別の選集になっていた。
なんと「食」の巻も。
随筆をテーマ別に読むのは、なんだか「ばっかり食べ」みたいで気が引けたけど。
やっぱり面白い。檀ふみさんのあとがきも最高。
そんな中で、私がどうしても食べてみたいのはこれ。
龍田揚げ。
かなわぬ想いだけれど。
だってこれは、團さんのお母さまのお得意料理で、レシピを残さず逝かれてしまい、團さんも再現不能だったから。
鶏の揚げもの、というだけで最強なのに、太さは小指位、長さは小指の三分の二位で一つ一つが上品なそれは、龍田川の紅葉のように赤みを帯び、「風味絶佳」だったそうで、團さんは想い出を、私は妄想を胸に「噬臍念裡に机を叩くのである」。
さて、悔しがっていても仕方ないので。
たまには風味佳ろしくフリットでも笑。
ー鶏のハーブフリット(4人分)ー
- 鶏むね肉 250グラム
- フレッシュハーブ(バジル、タイム、オレガノなどお好みで)のみじん切り 大さじ1
- 松の実 大さじ2
- 塩 小さじ2分の1から小さじ1
- 白こしょう 一振り
- オリーブオイル 小さじ1
- 粗挽き黒こしょう 一振り
- 小麦粉 2分の1カップ
- 片栗粉 4分の1カップ
- ベーキングパウダー 小さじ1
- 水 2分の1カップ
- トマトソース 1カップ
- 彩り用ハーブ 好きなものを好きなだけ
- レモン
- 鶏むね肉は小指位の大きさに切る。
- 松の実は粗くきざむ。
- むね肉に塩、白こしょう、みじん切りのハーブ、きざんだ松の実、オリーブオイルをもみ込み、30分ほど置いておく。
- 卵、水、ふるった粉類を混ぜ、衣を作る。
- 揚げる直前にむね肉に黒こしょうを振る。
- 衣をつけ、170~180度位の油で揚げる。火が通りやすく、焦げにくいので、衣がカリッと良い色になればよい。
- トマトソース、レモン、ハーブなどと盛り付ける。
※冷めても油っぽくならないのでお弁当にも。やさしい味なので下味はやや濃いめに。